東海大学理学部化学科
小玉研究室
スクアレン及びチロソールの分析によるエキストラバージンオリーブオイルと
そのブレンドオイルとのス クリーニング判別分析
オリーブの実をしぼったものがバージンオリーブオイル (VOO) であり、VOOのうち香などの風味のよいものをエキストラバージンオリーブオイル (EVOO) として分類される。他の植物油に比べてEVOOは高価である。 このため、EVOOに安価な植物油を混ぜた粗悪なブレンドオイルが出回っていると言われている。一般に、EVOOに安価な油を添加したか否かを分析するために、GC法やHPLC法を用いてトリアシルグリセロール、脂肪酸、ステロールやフェノール化合物のパターンを解析す
る方法が用いられている。最近の論文では、EVOOに安価な油を
5%~10%程度混合しても区別できると報告されている。研究者
らは自分でしぼったVOOを用いて研究しているため、そのVOO
の諸性質はよくわかっている。しかし、オリーブの品種は2500
以上あり、品種、産地や収穫時期により成分に変動がる。市販の
VOOやEVOOは産地(国だけではなく、地域まで)や品種が明確
ではないため、判別は現実的ではないと思われる。また、上記の
分析法は煩雑であることから、本研究では簡単な前処理操作で分
析可能なスクアレンとチロソールに着目してブレンドオイルを判
別する簡便なスクリーニング法を検討した。
その結果、
-
オイルやその他10種類の食用油に比べてエキストラバージンオリーブオイル (EVOO) で高いことが分かった。同様の結果はチロソール含有量についても得られた。
-
EVOOとピュアオリーブオイルやブレンドオイルを明確に区別できることが分かった。今回のスクリーニング法では50%以上の混入があれば、判別可能であった。しかし、EVOOとVOOの判別はできなかった。 J. Oleo Sci., 69, 677-684 (2020)
低濃度のシクロデキストリンを移動相に用いたキラルHPLC法によるマンデル酸の光学異性体分析
HPLC法による光学異性体分析法として直接法と間接法がある。多くの論文ではキラルカラムを用いる直接法やキラル化合物でジアステレオマーを形成させて逆相カラムで分離する間接法が用いられている。しかし、両法とも一長一短がある。第3の方法として移動相にキラル化合物を添加する方法が可能であるが、目的化合物と相互作用する光学純度の高い試薬の入手が難しいことがあり、報告例は少ない。例えば、移動相に10~30 mMのヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン (HP-β-CD) を加えた光学異性体分析法が数例報告されているが、移動相を1 L調製するために15~45 gのHP-β-CDが必要であり、現実的な分析法とはいえない。
本研究では、マンデル酸を対象化合物として、少量のHP-β-CDを加えた移動相と汎用的なフェニルカラムを用いたキラルHPLC法を検討した。
その結果、
(1) 0.1%(w/v) HP-β-CDを添加した移動相を用いてマンデル酸を分析すると、フェニルカラムでは光学
異性体分離されたが、ODSカラムやフェニルヘキシルカラムでは分離されなかった。
(2) HP-β-CDをプレコートしたフェニルカラムを用い、 HP-β-CD無添加の移動相でマンデル酸を分析す
ると、経時的に保持時間と分離度は減少した。一方、プレコートしたカラムで0.02% HP-β-CDを含む
移動相を用いると、マンデル酸を再現性良く分析できることが分かった。
(4) フェニルカラムではHP-β-CDは吸着・脱着の平衡状態であるのに対し、ODS及びフェニルヘキシルカ
ラムではHP-β-CDは官能基内部に入り込んでいると推定された。
Chirality, 32, 1020-1029 (2020)
*キラル分析法については、More内の「HPLCによる光学異性体分析法の概略」を参照してください。