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 私たちの研究室では新しい分析法をつくり、食品成分などを分析して新しいことを発見していこうと思いながら研究しています。

       主な研究テーマ

   ① 光学異性体のラセミ化に及ぼす糖類の抑制効果

   ② スルフォラファンの光学異性体比は何故ブロッコリーの部位によって異なるのか?

   ③ 希少糖であるL-糖の探索

   ④ コーヒー生豆の産地判別法の研究

柑橘類に含まれるシネフリンの光学異性体分析と糖類によるラセミ化抑制作用

 

 

 ミカンなどの柑橘類に含まれるシネフリンはアドレナリンに似た化学構造であるが、アドレナリンとしての生理作用は弱く、最近の研究ではシネフリンには気管支拡張作用や脂肪分解促進作用を有することが報告されています。

 

​ 私たちの研究室ではシネフリンの光学異性体分析法を検討し、ミカン、オレンジやダイダイの外果皮、中果皮、内果皮や果肉中のシネフリン光学異性体比を測定しました。さらに、ポンカン、伊予柑、八朔、甘夏や柚子の外果皮、ドライフルーツやジュースについても分析しました。その結果、これらの柑橘類サンプルから(R)-体のシネフリンがあること、一部のサンプルからは(S)-体が検出されたが、(S)-体の割合は1%以下であることが分かりました。

 シネフリンの一方の光学異性体、(R)-シネフリンを加熱すると、もう一方の(S)-シネフリンが生成(ラセ

ミ化)してくることが報告されています。しかし、加熱処理したドライフルーツからは(S)-シネフリンは生

成しません。何故だろうか?という疑問が出てきました。オレンジジュースには5%くらいのスクロース

(砂糖)が入っている他、スクロースを作っているグルコースやフルクトースも2~3%くらい含まれています。もしかしたら、これらの糖類がラセミ化を抑えているのでは?と考えて、(R)-シネフリンに色々な糖類

を加えて加熱し、光学異性体比を測定してみました。

 その結果、スクロースやマンニトール(糖アルコール)などの還元性

もたない糖にはラセミ化抑制効果はみられませんでした。一方、フル

クトース、グルコース、ガラクトース、アンノースやマルトース(グル

コースが2つ結合した二糖)などの還元糖にはラセミ化抑制作用のある

ことが分かりました。しかも、還元糖の種類によって抑制率が違うこと

も分かりました。

 

​ 還元糖はどのようなメカニズムでシネフリンのラセミ化を抑制してい

るのでしょうか?このことを解明するために、シネフリン以外の化合物

でもラセミ化抑制作用が見られるのか?特定の化学構造を有している化

合物だけなのか?ラセミ化以外の構造変化(シスートランス異性や環化

反応など)にも還元糖は作用るのかを明らかにしていこうと思っています。

スルフォラファンの光学異性体比は何故ブロッコリーの部位によって異なるのか?

スルフォラファンには発がん抑制作用に加えて、心疾患、糖尿病やアルツハイマーなどの精神疾患に有用な効果があることが報告されています。

 ブロッコリー中にスルフォラファンがあるわけではない。ブロッコリーには配糖体であるグルコラファニンがあり、傷がつくと普段は接触しないミロシナーゼが働いてスルフォラファンが生成します。

 

 グルコラファニンやスルフォラファンには不斉硫黄原子があり、天然のスルフォラファンはR-体と言われてきました。しかし、我々はスルフォラファンの光学異性体分析法を開発し、ブロッコリーの花蕾と茎、ブロッコリースプラウトの葉と茎から生成するスルフォラファンを分析したところ、部位によって光学異性体比が変わることを見つけました。特にブロッコリーの花蕾とブロッコリースプラウトの茎のS/R比はそれぞれ2/98と40/60であり、大きく異なっていました。この研究成果は J. Agric. Food Chem. 2017に掲載されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在は、ブロッコリーの部位によってスルフォラファンの光学異性体比が何故異なるのかを明らかにしたいと考え、研究しています。

希少糖であるL-糖の探索

 自然界に存在する糖はD-グルコースを代表とするD-糖から構成されています。D-グルコースに代表されるアルドヘキソースの場合、16 種類の異性体が存在します。この異性体のうち、半数の 8 種類はD-糖ですが、残りの 8 種類はL-糖です。一般に知られているL-糖にはL-アラビノースがありますが、逆にD-アラビノースはある種の細菌が産生するだけです。希少糖であるL-糖(L-グルコース、L-ガラクトースやL-マンンースなど)は自然界に存在するのだろうか?これまでのところ、HPLC法による単糖類の光学異性体は分離されているものの、単糖間の分離(エピマー分離)は困難でした。

 私たちの研究室では、3種類の六単糖(グルコース、マンノース、ガラクトース)と3種類の五単糖(アラビノース、リボース、キシロース)をL-トリプトファンアミドで還元アミノ化し、6種類の単糖光学異性体計12種類のエピマーで一斉に分析する方法を開発してきました。単糖の光学異性体、D-およびL-体はアルデヒド基から最も遠い不斉炭素原子に結合している水酸基の向きによって決められています。本分析法による分離挙動ではD-が先に溶出する単糖とL-体が先に溶出する単糖が観察されました。この溶出順はアルデヒド基に最も近い不斉炭素原子 (C2) がR-配置の単糖光学異性体は先に、S-配置の単糖光学異性体は遅れて溶出することが分かりました。この研究成果は Chirality, 27, 417-421 (2015)に掲載されました。

 

現在、この分析法を使って食品や植物中にL-糖があるかどうかを研究しています。また、単糖の光学異性体を一斉分析するためのHPLCカラムの開発についても検討しています。

 なお、本研究は学術研究助成基金助成金(基盤研究(C) 課題番号15K07458)から研究助成を受けています。

コーヒー生豆の産地判別法の検討

 

 世界中に流通しているコーヒーにはアラビカ種とカネフォーラ種(国内ではロブスタ種とも)があります。コーヒーは苦い飲みものというイメージですが、これはカフェインやクロロゲン酸などの苦味成分の濃度に関連します。アラビカ種のコーヒー豆の方がこれら苦味成分が少なく、豆を挽いて淹れるコーヒーに適しています。私たちは、アラビカ種のコーヒー生豆の産地を判別する方法を検討しています。

 

 日本国内の研究機関では一般に、農産物の各金属イオン濃度を分析し、その値をもとに統計計算処理をして産地判別を行っています。の方法は、農産物中の金属イオン組成は栽培される土地の金属イオン組成を反映するということに基づいています。といっても、産地判別を間違いなく行えるにはさらなる研究が必要です。

  私たちはコーヒーが生成する苦み成分、酸味成分や甘味成分などの有機物を分析し、アラビカ種コーヒー生豆の生産国を判別できる方法について研究しています。

 

 これまでの研究で、やぶきた茶の生産量が多い3つの県(静岡県、鹿児島県及び三重県)で栽培されたやぶきた茶のカテキン関連化合物を分析し、産地判別が可能であることを報告してきました。J. Heath Sci., 53, 491-495 (2007)

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